配線規格情報

ネットワーク配線設計(LAN配線)に考慮すべき主な規格 2024年5月11日更新

ネットワークの構築時にサーバールームの設計や配線構成設計を行いますが、その際に参考にすべき基本的な規格を以下に示します。これらの規格とガイドラインを守ることでネットワークの高速化や将来のネットワーク機器の交換時にも配線システムは継続利用が出来ます。さらに不要な配線に起因する日常運用のトラブルを避けることで長期的コストを抑えることが可能となります。


TIA-569-E Cover

TIA-569-E Telecommunications Pathways and Spaces

建物内および同一敷地内での建物間で通信ケーブルが布設される環境を定めています。
具体的にはケーブル敷設ルートに必要なサイズ、MDF室、IDF室、サーバールームの広さや照度そして空調環境等です。新築ビルの建築設計や企業の通信室等の設計には欠かせない内容となります。
国際標準規格ではISO/IEC 14763-2が対応しますが、TIA-569-Eの方がより具体的な内容となっています。
なお本書内の誤植が2022年6月発行のTIA-569-E-1の追加規格において訂正されています。

日本における建物設計も本規格を参照すべきですが、新築ビルであっても数十年前の通信環境を前提に設計されている例が多く見受けられます。


TIA-568.0-E Cover

TIA-568.0-E Gereric Telecommunications Cabling for Customer Premises

通信事業者ではない一般企業や学校等における配線システムの基本的設計手法が記述されています。
ネットワークのコアとなるメインのサーバールームから各フロアに設置されるサブ通信室等への接続構成や水平配線で許容されるオプション構成等が示されています。
さらに各種ケーブルと各種通信方式における最大のケーブル布設長や布設時の注意点も示されています。


TIA-568.1-E Cover

TIA-568.0-E-1 Generic Telecommunications Cabling for Customer Premises Addendum 1: Balanced Single Twisted-Pair Cabling

1対平衡ケーブルを使用した配線構成と設置要件を記述したTIA-568.0-Eへの追加規格です。

本規格書ははインテリジェントビルシステム(IBS), IoT, マシン・ツー・マシン(M2M), オペレーション・テクノロジー(OT)等のガイドラインを示しています。

1対平衡ケーブルに関しては高速度化と距離の延長の検討がIEEE、TIA、ISOにて進められており今後多くのアプリケーションと製品が発表されると期待されています。


TIA-568.2-D Cover

TIA-568.1-E Commercial Building Telecommunications Infrastructure Standard

一般企業向けの配線システム設計に特化した内容の記述になっています。TIA-568.0-Eとの違いは一般オフィスを前提にしたフロアサイズとサーバールームの設計について記述されている点です。


TIA-568_3-D Cover

TIA-568.2-D Balanced Twisted-Pair Telecommunications Cabling and Components Standards

メタル配線と呼ばれるCategory8規格までのシステムに使用されるケーブル、コネクタ、パッチコード等の材料規格です。市場に流通している配線材料には本規格を満足しない製品がありますので、材料の選定には注意が必要です。このTIA-568.2-Dの追加規格としてTIA-568.2-D-1 にCategory8試験用バラン規格が制定されています。


568.3-E

TIA-568.3-E Optical Fiber Cabling and Components Standard

光ファイバーケーブルシステムの材料規格です。マルチモードファイバーのTIA-492AAAF A1-OM3 (OM3)、 TIA-492AAAF A1-OM4 (OM4)、TIA-492AAAF A1-OM5 (OM5)およびシングルモードファイバーの(屋内と屋外兼用)TIA-492CAAC B-652.D or B-657、(屋内用)TIA-492CAAC B-652.D or B-657 (OS1a)、(屋外用)TIA-492CAAC B-652.D or B-657 (OS2)の6種類の品質について記述されています。

前規格TIA-568.3-Dと同様に、従来型シングルモードファイバーケーブルOS1はファイバーガラスに含まれるOH基による1383nm付近の損失が発生しますが設計候補から削除されCWDM等の波長多重が可能なファイバーケーブルの品質について記述されています。

屋内用シングルモード光ファイバーケーブルは損失が1.0dB/km以下、屋内と屋外に共用されるシングルモード光ファイバーケーブルは0.5dB/km以下、屋外専用のシングルモード光ファイバーケーブルの呼称をOS2と定義しその損失は0.4dB/km以下としています。

過去に使用されていたマルチモードファイバーケーブルOM1、 OM2およびシングルモードファイバーB-652.B対応ケーブルはANNEX Bに情報として記述されています。

光ファイバーケーブルを接続する際のMPOコネクタを含めた送受信極性についても詳しく解説されています。その他、マルチモードとシングルモードの光ファイバーの損失測定として1コードリファレンス測定法の概要と、OTDRでの測定方法も簡単に解説されています

カラーコードについては光アダプター、コネクター、ブーツ等の色をOM3,OM4はアクア、OM5はライム、OS1a,OS2はブルーそしてAPCコネクタはグリーンとなり前規格からの変更はありません。

また、マルチモード光ファイバー試験に使用されるテストコードと一般コネクタが接続された場合の損失について前規格と同じ0.5dBですがMPOコネクタについてのみ0.6dBとされました。


TIA-526-14-D Cover

TIA-526-14-D Optical Power Loss Measurement...Multimode Attenuation Measurement

マルチモード光ファイバーの損失測定要領を示す規格文書ですが、TIA-526-14-DではIEC61280-4-1 Edition 3.1が参照されています。

本規格で注目されるのは測定に使用される試験コード(TRC)のコネクタの精度についてです。リファレンスグレードと一般市販品のスタンダードグレードをTRCに使用した場合の不確かさが示されています。損失が2.0dBの光ケーブルシステムを1コードリファレンスで測定した場合、リファレンスグレードTRCを使用すると結果の不確かさは0.30dBなのに対してスタンダードグレードTRCでは1.25dBにもなります。これでは10GBase-SRのような低損失が求められる光ファイバーシステムでは十分な測定精度が得られません。そこでリファレンスグレードのTRCが必要となり、損失の計算式も両側コネクタ接続部分に(0.75dBではなく)0.5dBを割当てる事が解説されています。

TIA-526-14-DおよびIEC 61280-4-1 edition 3.1では損失測定に用いる測定器の試験コードに曲げ耐性を持つBIMMファイバーの使用が認められるようになりました。主な理由としてBIMMファイバーが普及している現状を踏まえての改定のようですが、関連して試験コードの長さは光源側2m~5m、パワーメータ側は2m~10mとされ、BIMMコードを使用する場合は長めの試験ケーブルが推奨されています。

BIMMファイバーは光源からの大きな入射角や小さな曲がりの部分で光がコア周辺にガイドされクラッド側に逃げない性質を持つためですが、そうなってはEncircled Flux光源にする意味が無くなってしまいます。しかしこのコアとクラッドの境界付近を通過する光も直線状態や大きな曲げ半径の場所では1~2mで解消されるため長めの試験コードが推奨されるのです。従ってBIMMだから試験コードを小さな曲げ半径にして損失測定を実施しても良い事にはならないので注意が必要です。

IEC 61280-4-1 Ed. 3.1ではコア径50μmも62.5μmも両波長(850nm, 1300nm)でEncircled Flux光源の使用がが求められていますが、本規格TIA-526-14-Dではコア径50μmと波長850nmの組合せにおいてのみEncircled Flux光源の使用が求められ、その他の組合せにおける測定ではEncircled Flux光源の使用は推奨(recommended)されているだけで従来のLED光源とマンドレルラップでの測定方法も認められています。


TIA-492AAAF Detail Specification for Class 1a Graded Index Multimode Optical Fibers; Modification of IEC 60793-2-10:2017, Optical Fibers- Part 2-10: Product Specifications- Sectional Specification for Category A1 Multimode Fibers

各種マルチモードファイバーの詳細仕様を記述した規格書で、IEC 60793-2-10:2017を基本とした修正規格となっています。

TIA-568.3-D規格と同様にOM1とOM2については過去の製品情報としての位置付けで記載されており新規の布設は推奨されておりません。また注意しなければならないのは従来のOM3, OM4 およびOM5ケーブルから新たにA1-OM3, A1-OM4そしてA1-OM5と呼称を変えています。そして新たな最大損失は850nmにおいて2.5dB/km、1300nmにおいては0.8dB/kmとなっています。過去の規格は850nmで3.0dB/kmと1300nmで1.5dB/kmでしたが、未だに多くのケーブルメーカーの製品仕様書には過去規格の損失性能が記載されたままとなっていますので、購入の際には製造メーカーと確認をとられる事をお勧めします。


TIA-526-7-A Cover

TIA-526-7-A Measurement of Optical Power Loss....Single-Mode Attenuation and Optical Return Loss Measurement

シングルモード光ファイバーの損失測定とリターンロス測定要領を示す規格文書です。本規格も本文はIEC-61280-4-2を参照する形式をとっています。

損失測定手順の1~3コード(ジャンパー)基準方式についてはマルチモードの基本的な考え方と同じです。両側に光パッチパネルで構成される場合は1コード基準が推奨され、試験機のコネクタ形状と光パッチパネルのコネクタ形状が異なる場合は2コード基準、測定区間が光パッチパネル間ではなくチャネルや光パッチコードの損失測定には3コード基準方式で測定を実施します。


TIA-4920000-C Generic Specification for Optical Fibers

現在光ファイバーの性能は日進月歩で向上し新しい製品が製造販売されています。しかし性能向上に伴って新しい規格呼称で定義づけられているのですが、非常に複雑で混乱をきたしています。例えば同じ性能を持つノンゼロ分散シフトシングルモードファイバーはIEC 60793-2-50:2018とANSI/TIA 492CAACに於いてはB-655.Eと記述されているのですがITU-T RecommendationではG.655.Eと記述されています。

またマルチモードファイバーについては従来のISO/IEC 11801-1:2017でOM3と呼ばれていたケーブルは低損失化されて最新規格ISO/IEC 60793-2-10:2019ではA1-OM3と定義されています。ANSI/TIAではIEC規格と整合を取る必要性から同じくA1-OM3と呼ばれます。OM4, OM5についてもA1-OM4, A1-OM5とされています。

これらの複雑化した性能別呼称を分かり易く対応表にまとめたのが本規格書となります。


TIA-1152-A Cover

TIA-1152-A Requirements for Field Test Instruments and Measurements for Balanced Twisted Pair Cabling

Category5e~Category8に対応するフィールド試験機規格です。

本規格書は2016年11月10日に発行されましたが、2021年7月15日にREAFFIRMED(再確認)版が新たに発行されました。TIAの規格文書は約5年を目途に改定されますが、今回は内容の変更を伴わない珍しいケースです。既に2016年11月版をお持ちの場合には新たに購入される必要はありません。また、2021年から新たに発行される規格文書のデザインが変更されました。

試験機の精度と対応配線規格が示されています。Level lle:Category 5e, Level lll:Category 6, Level llle:Category 6A, Level 2G:Category 8(2GHzまで)という対応になります。(参考:IEC規格のClass FはLevel lVで600MHzまでの精度です。)

日本では文部科学省のGIGAスクール構想で学校内の配線はCategory 6Aが求められ、国土交通省の公共建築工事標準仕様書(電気設備工事)ではCategory 6A (Class EA)配線にはエイリアンクロストーク測定が要件となっています。このエイリアンクロストーク測定時の試験機接続構成も本規格に記述されています。

対応するISO IEC61935-1規格には同様の試験構成とパッチパネルにおけるエイリアンクロストークポートの選定について記述されています。


TIA-942-B Cover

TIA-942-C Telecommunications Infrastructure Standard for Data Centers

5年前に発行されたTIA-942-Bから改定されました。この改定版には従来の追加規格ANSI/TIA-942-B-1に掲載されていたエッジデータセンター(EDC)が新たにMicro edge data centers(μEDC)としてAnnex EとAnnex Fに掲載されました。本章には現在のデータセンター環境でみられる様々なケーブルシステム構成においてセキュリティ、ラック密度、空調のエアーフローの考慮、管理容易性との適切なバランスを達成するためのフロアレイアウトについても取り上げています。


TIA-942-B Cover

ANSI/TIA-942-B-1 Telecommunications Infrastructure Standard for Data Centers Addendum 1: Edge Data Centers

ANSI/TIA-942-Bの追加規格としてエッジデータセンター(EDC)と呼ばれるデータセンターのインフラ要件と設計指針を示しています。コアデータセンターよりも小規模で遅延の低減やデータの前処理、仮想無線アクセスネットワーク(RAN)機能の展開等の機能を実現し、冗長性だけでなくメッシュネットワークや他の相互接続等により新しいコンセプトによってサービス回復力を強化させる一助となります。


TIA-4966-A Telecommunications Infrastructure Standard for Educational Facilities

学校等教育機関向けの配線システムの設計に特化した規格です。TIA-4966-Aに更新されました。新規のケーブル敷設にはCategory 6Aの採用が推奨されています。30m以内のCategory 8も選択肢とされています。


TIA-4966-A-1 Telecommunications Infrastructure Standard for Educational Facilities Addendum 1: Balanced Single Twisted-pair Cabling

学校等教育機関向けの配線システムの設計にシングルペアケーブルの採用が推奨されました。用途はIBS:Intelligent Building Systems, IoT: Internet of Things, M2M:Machine to Machine, OT:Operational Technologyです。


TSB-162-B Cover

TSB-162-B Telecommunications Cabling Guidelines for Wireless Access Points

無線LAN用の配線に特化したガイドラインを示しています。

スイッチから無線LANアクセスポイントまでの配線の内、アメリカBICSIからの要請でアクセスポイント側に従来規格が定める通信アウトレットを介さない配線構成が現在では認められています。

これに対して本規格では従来どおり、アクセスポイント側に通信アウトレットを使用して柔軟な長さのパッチコードを用いることによりアクセスポイント位置の変更や増設にも対応可能とする考え方です。アクセスポイント側ケーブルのプラグ付近は急激な曲げを強いられたり位置変更により移動されることからダメージを受ける可能性が高く、交換可能なパッチコードを使用する方が合理的と言えます。


TSB-184-A Cover

TSB-184-A Guidelines for Supporting Power Delivery Over Balanced Twisted-Pair Cabling

LAN用Category 5e~Category 8の4Pツイストペア配線で機器に電源を供給する場合のケーブル施工ガイドラインを示しています。

Ethernet Allianceが定めるPoEクラス8では90W以上の電力をネットワーク機器に供給します。これは1ペアあたり約1Aの電流が流れることになり、今まで以上にケーブルの施工場所と束ねる本数に注意を払う必要があります。ケーブルを多く束ねると温度上昇が問題となり布設場所が鉄管内だと更に温度が上昇することになります。

追加規格としてTSB-184-A-1が2019年2月に発行され、細径AWG28ケーブルの場合の温度上昇について記述されています。結論としては細径AWG28ケーブルの用途は非常に限定されることになります。